数学ガール 〜フェルマーの最終定理〜

数学ガール/フェルマーの最終定理 (数学ガールシリーズ 2)

数学ガール/フェルマーの最終定理 (数学ガールシリーズ 2)

ふとしたきっかけからヨメと「面白くなくない数学」の話になり、折しもtwitterのTL上で盛り上がっていた「数学ガール 〜フェルマーの最終定理〜」を購入した。流石に大学院まで数学をやっていたのでこの手の本はサラサラ読めるのだけれど、全体を通して丁寧に、丁寧に、そしてとても根気強く書かれている点は脱帽。

中身は初等整数論の初歩をベースに「急ハンドル」のオンパレードといった感じ。

  • まずは、三平方の定理 a^2+b^2=c^2,\hspace{2} a, b, c\in Z の解が可算無限だけあるよ、という話を採り上げてリズムを作ったかと思いきや、
  • sqrt{2}無理数であることの証明(背理法)でクッションを置いた後、
  • 複素数平面にハンドルを切って、群・環・体の導入ときた! 通常でいけば準同型定理くらい出てくるのかなと思っていたら、、、
  • 無限降下法でn=4によるFermatの最終定理 x^4+y^4=z^4,\hspace{2} x,y,z\in Z \Rightarrow xyz=0 の証明。そして、「博士の愛した数式」のモチーフにもなったオイラーの式e^{i\pi}=-1が登場。単に登場させるならまだしも、
  • そこから指数法則a^{s+t}=a^s\times a^tや、
  • オイラーの公式 e^{i\theta}=\cos\theta+\sqrt{-1}\sin\theta しかも、その「後」テイラー展開。あれれ、話の順序は大丈夫、、、?!*1

大学に入って数学を学ぶことになる「解析」「幾何」「代数」の3拍子揃った内容だ。考えてみれば無理もない。フェルマーの最終定理の証明自体も、それら3分野の基礎は元より保型形式論、楕円曲線論など多くの分野をまたがる「知的アクロバット」なのだから。恐らく著者の結城さんは、多くの読者にその「アクロバット」を楽しんで欲しかったのだと思う。

数学の専門書となると、

定義→命題→証明→定義→命題→証明→...

といういつ終わるとも知れない連鎖にドハマリしがちだけれど*2(大汗)、本書p306の

幸いなことに、谷山・志村の定理の雰囲気を味わうだけなら、大きな武器はいらない。必要なものは剰余、根気、想像力だ。

にもあるように、この本の要所要所で要求されるのは、まさに「根気」。そして読み終えた後に私たちに備わっているのは「想像力」なのだろう*3

実は、恐れ多くも本書を購入前に著者の結城さんからは

数学ガール」シリーズは、読者さんの数学の理解度に応じていくらでも楽しめるようにできています。理解できなくても楽しめるように作っていますので、中学生から大学院の先生まで読者層です。

http://twitter.com/#!/hyuki/status/48955150592770048

とのメッセージを頂いていた。読者各人の数学的素養に依らず、「想像力」を最大限に引き出してくれる良書となるだろう。

さて、当初の目的、ヨメへの説明が成功するか、つまり本書が「面白くなくない数学」となりうるは定かでない(と言うか、読めば読むほど話題の豊富さを前に頓挫しそうな気がしてきた)。。。

*1:本書で扱う数式たちはあくまで「紹介」なのでしょうし、論理的厳密生を求めても仕方のない部分もあります。よく読むと、決して論理的な矛盾はしていないのですが、通常数学の本で登場する順序から言うとトリッキーな部分が多かった感じはしました

*2:そして、その連鎖にドハマリすること無しに数学が分かることもないのだけれど

*3:因みに「剰余」は、この後、有限体\mathbb{F}_pが整数全体をpで余り(剰余)全体だから、ということ