指数法則と加法定理は親戚:)

先日、数学ガール 〜フェルマーの最終定理〜という記事を書いたけれど、そこで扱われる「(指数関数の)指数法則」と「(三角関数の)加法定理」が「親戚」と言えることを思い出した。

ちょっと印象的な言い回しなのだけれど、実関数としての指数関数と三角関数*1は一本の微分方程式の実部(real part)と虚部(imaginary part)とみなすことが出来る。

\frac{d}{dz}f(z)=f(z),\hspace{2} f(0)=1
これを解くと、唯一の解
f(z)=e^z
が出てくる*2。で、細かいことを省いて象徴的に書けば

勿論、z=x+\sqrt{-1}y,\hspace{2} x,y\in\mathbb{R}。このうち、実部、虚部を象徴的に書けば
e^z=e^x\times e^{sqrt{-1}y}=e^x\times (\cos(y)+\sqrt{-1}\sin(y))
だ。最後の等式はオイラーの公式e^{\theta}=\cos\theta+\sqrt{-1}\sin\thetaを使った。

それで、お題目の「指数法則と加法定理は親戚」という話。実数a,b\in\mathbb{R}に対して指数法則
e^{\sqrt{-1}(a+b)}=e^{\sqrt{-1}a}\times e^{\sqrt{-1}b}
を考えてみよう。左辺はオイラーの公式より
\cos(a+b)+\sqrt{-1}\sin(a+b)
一方の右辺は、
(\cos a+\sqrt{-1}\sin a)\times(\cos b+\sqrt{-1}\sin b)=\cos a\cos b+(\cos a)(\sqrt{-1}\sin b)+(\sqrt{-1}\sin a)(\cos b)+(\sqrt{-1}\sin a)(\sqrt{-1}\sinb)
=\cos a\cos b-\sin a\sin b+\sqrt{-1}(\sin a\sin b+\sin b\cos a)
実部と虚部を比較すれば
\cos(a+b)=\cos a\cos b-\sin a\sin b, \hspace{2}\sin(a+b)=\sin a\sin b+\sin b\cos a
ですよね。そう、これは三角関数の加法定理ですね。複素関数の(正則関数に関する)微分方程式さえ認めれば、指数法則から加法定理を導くことが出来るんです♪

*1:つまり、高校で習うはずの指数関数と三角関数という意味

*2:大学数学を知ってる方は、正則関数(holomorphic function)とかも勉強してね〜

数学ガール 〜フェルマーの最終定理〜

数学ガール/フェルマーの最終定理 (数学ガールシリーズ 2)

数学ガール/フェルマーの最終定理 (数学ガールシリーズ 2)

ふとしたきっかけからヨメと「面白くなくない数学」の話になり、折しもtwitterのTL上で盛り上がっていた「数学ガール 〜フェルマーの最終定理〜」を購入した。流石に大学院まで数学をやっていたのでこの手の本はサラサラ読めるのだけれど、全体を通して丁寧に、丁寧に、そしてとても根気強く書かれている点は脱帽。

中身は初等整数論の初歩をベースに「急ハンドル」のオンパレードといった感じ。

  • まずは、三平方の定理 a^2+b^2=c^2,\hspace{2} a, b, c\in Z の解が可算無限だけあるよ、という話を採り上げてリズムを作ったかと思いきや、
  • sqrt{2}無理数であることの証明(背理法)でクッションを置いた後、
  • 複素数平面にハンドルを切って、群・環・体の導入ときた! 通常でいけば準同型定理くらい出てくるのかなと思っていたら、、、
  • 無限降下法でn=4によるFermatの最終定理 x^4+y^4=z^4,\hspace{2} x,y,z\in Z \Rightarrow xyz=0 の証明。そして、「博士の愛した数式」のモチーフにもなったオイラーの式e^{i\pi}=-1が登場。単に登場させるならまだしも、
  • そこから指数法則a^{s+t}=a^s\times a^tや、
  • オイラーの公式 e^{i\theta}=\cos\theta+\sqrt{-1}\sin\theta しかも、その「後」テイラー展開。あれれ、話の順序は大丈夫、、、?!*1

大学に入って数学を学ぶことになる「解析」「幾何」「代数」の3拍子揃った内容だ。考えてみれば無理もない。フェルマーの最終定理の証明自体も、それら3分野の基礎は元より保型形式論、楕円曲線論など多くの分野をまたがる「知的アクロバット」なのだから。恐らく著者の結城さんは、多くの読者にその「アクロバット」を楽しんで欲しかったのだと思う。

数学の専門書となると、

定義→命題→証明→定義→命題→証明→...

といういつ終わるとも知れない連鎖にドハマリしがちだけれど*2(大汗)、本書p306の

幸いなことに、谷山・志村の定理の雰囲気を味わうだけなら、大きな武器はいらない。必要なものは剰余、根気、想像力だ。

にもあるように、この本の要所要所で要求されるのは、まさに「根気」。そして読み終えた後に私たちに備わっているのは「想像力」なのだろう*3

実は、恐れ多くも本書を購入前に著者の結城さんからは

数学ガール」シリーズは、読者さんの数学の理解度に応じていくらでも楽しめるようにできています。理解できなくても楽しめるように作っていますので、中学生から大学院の先生まで読者層です。

http://twitter.com/#!/hyuki/status/48955150592770048

とのメッセージを頂いていた。読者各人の数学的素養に依らず、「想像力」を最大限に引き出してくれる良書となるだろう。

さて、当初の目的、ヨメへの説明が成功するか、つまり本書が「面白くなくない数学」となりうるは定かでない(と言うか、読めば読むほど話題の豊富さを前に頓挫しそうな気がしてきた)。。。

*1:本書で扱う数式たちはあくまで「紹介」なのでしょうし、論理的厳密生を求めても仕方のない部分もあります。よく読むと、決して論理的な矛盾はしていないのですが、通常数学の本で登場する順序から言うとトリッキーな部分が多かった感じはしました

*2:そして、その連鎖にドハマリすること無しに数学が分かることもないのだけれど

*3:因みに「剰余」は、この後、有限体\mathbb{F}_pが整数全体をpで余り(剰余)全体だから、ということ

マグニチュードが0.2増えるとどうなる?

先日(2011/3/11)の大地震の時、はじめは「マグニチュード8.8」と発表された後、
マグニチュード9.0」に修正されました。

その報道の際、「マグニチュードは0.2だけ増えましたが、地震のエネルギーは2倍になりました」
という表現が使われていました。
どう計算すると「マグニチュード0.2の差異が(地震の)エネルギーとして2倍異なるようになるのか」
について解説してみたいと思います。

Wikipediaによれば、地震のエネルギーEマグニチュードMの間には、
\log_{10} E=4.8+1.5M
の関係が成立していると言われます。詳しくはWikipediaのマグニ チュードのページをご参照あれ。

それで、

  1. マグニチュードが8.8の時のエネルギーがE_1
  2. マグニチュードが9.0の時のエネルギーがE_2

とすると、上の式より
\log_{10} E_1=4.8+1.5\times 8.8
\log_{10} E_2=4.8+1.5\times 9.0
が成立します。両式を引き算すれば、
\log_{10}E_2-\log_{10}E_1=1.5\times 0.2
ですね。対数の公式
\log_a(N_1)-\log_a(N_2)=\log_a\frac{N_1}{N_2}, \hspace{2} where \hspace{1} a\neq 1, N_1,N_2>0
を思い出せば、左辺=\log_{10}\frac{E_2}{E_1}
よって上の式は
\log_{10}\frac{E_2}{E_1}=0.3
対数の定義より
\frac{E_2}{E_1}=10^{0.3}\simeq 1.995
つまり
E_2\simeq 1.995\times E_1
となります。マグニチュードが8.8から9.0になった時、地震のエネルギーは1.995倍(≒2倍)となることが分かりました。

地震の「エネルギー」はジュールで測られます。「ジュール」がよくイメージできない場合は、
とりあえず、「カロリー」でもいいです。ダイエットとかでよく

1日の摂取カロリーが××○○、、、

といわれますよね。

因みに、同様な計算からマグニチュードが1.0だけ大きくなると、地震のエネルギーは10\sqrt{10}だけ大きくなることが分 かります。

上記の文脈とは全く関係ありませんが、語学マニアのために付け加えると、
名詞「magnitude:壮大さ、偉大さ」は形容詞「magnificent:壮大な、堂々とした」の派生語などがあります。
フランス語でも、形容詞「magnifique:すごい」は日常会話でもよく使われる、、、と思います(確か)w

2xとx^2は何が違う?

中学1年の時に思った疑問です。
2xx^2は何が違う?

定義をみれば明らかですよね:
2x:=x+x
で、もう一方は、
x^2:=x*x
つまり、2xxを2つ加えたもの、x^2xを2つ掛け算したもの。演算の違いってことですね。

いや、当たり前なんですけどねww

展開公式の話

中学2年生?もしくは3年生で展開公式を習いますよね。例えば、
(x+y)*(x+y)=x*x+2xy+y*y
ていうやつ。で、公式だけ覚えてると、
(x+y)*(x+y)=x*x+y*y
みたいに真ん中の2xyを忘れちゃう人がポコポコ出て来たりするんですが(汗)この式だって、頭から「ちゃんと覚えなさい!」とか言っても覚えるわきゃないのです(多分)。

視点を変えて、間違ってしもた式
(x+y)*(x+y)=x*x+y*y
は成立し得ないのか?と考えてみれば、2=0となるような「数の体系」では成立しますよね。そんなもんあるのか、っていうと、これがまたあるんです♪ 「数の体系」が\{ 0,1\}であるよな「数」を考えればね。この数の世界での「和」は、
0+0=0, 0+1=1+0=1, 1+1=0
と「定義」してあげれば矛盾なく和の演算が定義できます。最後の
1+1=0
てのが何やら違和感を覚える感じがしますが、ここがまさに2=0であることを示します。情報系の言葉でいえば、「排他的論理和」と呼ばれます。数学の言葉では、Z/2Zに和を定義したもの、と言えば通じるでしょうか。

なんかいろいろ専門用語が連なりましたが、根っこは一緒。
ヒス○リックに「ちゃんとを覚えなさい!」と言うのは簡単ですが、そもそもこの「ちゃんと」に根拠は全くありません。だって、(x+y)*(x+y)=x*x+y*yは成立する場合だってあるんだから。
間違いをきっかけに立ち止まって考えてみるのもたまにはいいカモですね。

なんで(-1)x(-1)=1なの?って話。

中一くらいで疑問の思うありがちな話ですよね〜。でも、「整数の数体系」を考える限り、こうならざるを得ないんです。*1
この手の話のって、証明しちゃえば、まずはぐうの音も出ませんよね。

では早速〜。

Prop.
(-1)\times (-1)=1である。

Proof
まずは、
1+(-1)=0
ですよね。両辺に-1を書けると
(-1)\times (1+(-1))=(-1)\times 0
で、左辺=(-1)\times 1+(-1)\times (-1)=-1+(-1)\times (-1)、右辺=0なので、
-1+(-1)\times (-1)=0
両辺に1を加えて、
(-1)\times (-1)=1
ですね。■

さて、上の証明を眺めてみると、

  • 1+(-1)=0の両辺に対して、-1を掛け算
  • 分配法則の適用
  • -1\times 1=-1
  • -1\times 0=0

という「ルール」を適用しただけです。

逆にこれらの「ルール」が成立する体系であれば、常に(-1)\times (-1)=1という等式は成立することになります。

寝起きで何だか頭が寝ぼけてるんですが(汗)、ま、そういうことで(笑)

*1:話はややこしいので、詳しくは説明しませんが、そうじゃない「数」の体系も作れるカモですが、今日は話しません

微分方程式って言えば、高校数学じゃなかったな。

さっき書いた半減期とは?という記事で、何の断りもなく「微分方程式(differential equation)」という言葉を使ってしまいましたね。
そういや、ボクも高校生の時に微分方程式っていう言葉は知ってこそいるけど、教科書に載っていないんでした。。

あんまり杓子定規に考えても仕方ないので、(後付けではあるんですが)理屈としてスッキリするやり方で書いてみますね。
皆さんに微積分の知識はあると想定します。そのとき、指数関数の微分てのは、一般に
\frac{d}{dx}a^x=(\log_e a)e^x, a\neq 1
とします。勿論、eは自然対数です。例えば、
\frac{d}{dx}2^x=(\log 2)e^x
なんかが該当します*1。これを解釈すると、2^x微分すれば、係数\log 2はつきますが、同じ関数が現れますね。てことで、微分しても「変わらない」関数を考えてみます。つまり
\frac{d}{dx}f(x)=f(x)
というものです。微分しても全く変わらない関数。そんなもんあるんですか?という発想。1つ前の式が頭にあれば、\log_ea=1となるような定数なら良さそうです。つまり指数関数の底が自然対数というもの。これは、
\frac{d}{dx}e^x=e^x
という意味です。これ、高校数学の教科書の範囲でも載ってる範囲、、、てか、知ってなきゃいけない話ですね(笑)

で、いちいちf(x)と書くのが面倒っちいので、yと書いてみます。すると上の方程式は、
\frac{d}{dx}y=y
という方程式になりますね。これはもちろん、
\frac{dy}{dx}=y
と書くことも出来ます。この方程式からy=e^xという式を導き出すにはどうしたらいいでしょうね。この発想は、2次方程式ax^2+bx+c=0からx=...と導き出す仮定を見いだすアルゴリズムを考える、ていうことです。大概こういうのって面倒なんですけどね(笑)*2

閑話休題。ともかく関数y微分されてますから、上式の積分をせにゃ元に戻らなそうです。これまた後知恵なんですが、
\frac{d}{dx}\log z=\frac{1}{z}
ですよね。これを「形式的に変形」して
d(\log z)=\frac{dz}{z}
ですね。変数をzにすると複素関数論なんかをご存知の方から「変数を複素数に変えたんか!」とか突っ込まれそうですけど、単に新しい変数を導入したいだけです。。。これを踏まえてさっきの式を変形すると、
\frac{dy}{y}=dx
で、左辺はさっきの通り\frac{dy}{y}=d(log y)ですから、
d(\log y)=dx
です。両辺を積分すると、
\int d(\log y)=\int dx
です。微分して積分したら元に戻る、てことで、
\log y=x+C
になりますね。ここでC積分定数です。よって、
y=e^{x+C}=e^x \dot e^C
ですね。右の等号は指数法則を使いました。ちょっと「形式的」な話が腑に落ちない感じはしますが(汗)、ま、それはおいおいということで(笑)

以前、ポアンカレ予想"追跡"日記 〜多様体の定義〜にも書きましたが、高次元の図形である「多様体(manifold)」になると、こういった微分積分の話を「拡張」して「微分形式(differential form)」なんてものも登場したりします。必ずしも微分方程式を解くための道具というわけではないんですが、そもそもの意味付けを行うことと同時にこういった「形式」を覚えるのもそれなりに意義があったりもします♪

高校数学だけやってると、こういう話って分からないんですけどね。。。

*1:以下、対数の底は自然対数ね

*2:こういったものを「逆問題」と言ったりします。主に「応用数学」と言われる分野で用いられることが多いです。兎も角、「解いてナンボ」とか、そういうのに興味がある方専用、、的な用語ですね>逆問題